囲炉裏の火は、一時間もたない

寒の地獄旅館

0973-79-2124

〒879-4911 大分県玖珠郡九重町田野257番地

受付時間/8:00〜20:00 休館日/水曜日

囲炉裏の火は、一時間もたない

寒の地獄だより

2026/08/29 囲炉裏の火は、一時間もたない

寒の地獄旅館 温泉棟入り口の囲炉裏と丸太の長椅子

 

温泉棟の入り口に、囲炉裏があります。

 

まわりには丸太の長椅子。四、五人も腰掛ければいっぱいの、素朴なものでございます。チェックインの十五時に合わせて、火を入れる。それが私どものささやかな支度です。

 

ところが、この火が長くもたない。

 

薪は、堅い木ほどゆっくり燃えます。ナラやクヌギ。柔らかい杉はよく燃えますが、その分、早く尽きる。いずれにせよ一本くべて一時間ほど。宿の者はあちらへ呼ばれこちらへ呼ばれしておりますから、気がつくと熾火が心細くなっている。日が落ちるより先に、火のほうが落ちてしまう――そういう夕方が、ままあるのです。

 

寒の地獄旅館 積み上げられた薪

 

すると、どうなるか。

 

お客さまが、くべてくださるのです。

 

寒の地獄旅館 囲炉裏で燃える薪と鍋

 

長椅子に腰掛けていた方がそっと立って、薪を一本。それをまた別の方が受け継ぐ。私が慌てて駆けつけた頃には、火はすっかり元気を取り戻しております。面目ない話ですが、申し訳なさよりも先に、少しばかり嬉しくなってしまう。困ったものです。

 

炎というのは不思議なもので、見ていると皆さま黙ります。しゃべらないのに、気まずくない。ぱちぱちと爆ぜる音のあいだに、それぞれがそれぞれの考えごとをしている。ものを考える時間というのは案外、こういう手持ち無沙汰の中にしかないのかもしれません。

 

このごろ、ふと思うことがあります。

 

寒の地獄旅館というのは、舞台装置なのではないか、と。主役はお客さま。私どもはそのわきに控える脇役でございます。一泊二日。人生の長さからすれば、まばたきのような時間です。その一瞬を分け合って、皆で一つの旅を演じている。囲炉裏の火は、さしずめ舞台の明かりというところでしょうか。

 

薪をくべてくださる方は、脇役どころか裏方まで買って出てくださっているわけで。ありがたいことでございます。

 

なお、念のためひとつだけ。

 

薪をくべていただけるのは、温泉棟の囲炉裏だけでございます。サウナ室の薪ストーブは、どうかそのままに。あちらは火加減が命でして、善意の一本が思わぬことになります。

 

火の番は、私どもにお任せください。囲炉裏のほうは――どうぞ、お好きに。

 

ご来館を心よりお待ちしております。

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